
同じ年(1895年)に生まれ、ほとんど同じ長さの生涯を生きた二人。ハスキルはルーマニア生まれのユダヤ人、第二次大戦中はどんなにか苦労したことだろう。かたやヒンデミットはナチス政権に睨まれ、ドイツにいられなくなりスイスに逃げ、そのあと40年にアメリカへ渡った。入れ違うようにしてフランスからスイスに逃げたハスキルだった。
この天才は難病でピアノが弾けない時期もあったというが、1920年頃はパリでカザルスやエネスコたち大演奏家と共演し、あらゆる音楽家の注目を集めていたにちがいない。彼女の写真を見ると、華やかさよりもむしろ、真面目で内向的で、不器用な印象も受ける。モーツァルト弾きとして有名すぎるほどだが、ヒンデミットの「四つの気質」を聴いて、目ならぬ耳からウロコが落ちるくらい、でもとても新鮮な驚きだった。
作曲家自身が指揮をした1957年のライヴ録音。
その空間には音楽が密になっており、空気に手を触れると力強く軽やかに、ほどよく律動する。弦楽器も情熱がほとばしる。
ピアノソロと心を寄せるようなアンサンブル。
軽快なタッチ、聡明で、心は熱く、積極的でインスピレーションに溢れた音楽。空を駆けていくように爽やかでありながら、音が鳴るその瞬間を確かにつかんで見つめている冷静さを感じる。
共演しているこの二人が同い年だとは。なんという出会い、なんて時代だ!