2018年07月06日

羊の腸の音色と力強さ

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「ガット弦はあまり好きじゃない。音色がないでしょ」と、たまに言われます。
正直いうと私も以前は、ガット弦は音がこもっているし、音程が悪く聴こえると思っていました。自分で使い始めるまで、潜在能力と魅力に全く気づきませんでした。
考えてみると、20世紀初めまでは、ほとんどの有名な演奏家はガット弦を使っていたのですから、そして、まだその古い録音は現代の私たちに幸福を与えてくれるのですから、そんなに不完全で貧弱なものではないはずです。

もちろん、モダンのオーケストラやスタジオ録音の仕事には向いていません。演奏不能な現代曲もあります。
向き不向きはスチール弦だって同じです。

表現力の引き出し、喋り方の多彩さ、音色のパレットの豊富さは素晴らしいです。
私はモダン楽器にガット弦を使って、目から鱗が度々落ちています。見えないもの、見えるはずの見たかったものが見えるようになってきます。
ベートーヴェンはもちろん言うまでもありません。
ブラームス!
あんなに音を出すのに苦労したブラームスが、弾けそうなはずなのになかなかイメージのような音が楽器から引き出せなかったブラームスが。パワーが足りず私はまったく力不足だ、と感じていたけれど、一方で、こんなに重く力で弾く音楽なはずがない、と弾くたびにわからなくなっていたブラームス。
こんなに弾くのが楽しいなんて!
どんどん奏法のインスピレーションが沸きます。音を出すときに、体のどこかに止まっている、自分で無意識に止めている部分があると、楽器はよく鳴ってくれません。それがガットだと体の一部のようにわかるのです。滞りをなくすと、ドッペルコンチェルトだってどんどん鳴ってくるのです。びっくり!

シューベルトやシューマン、とにかく19世紀の音楽には欠かせないはず。
本当は、小品なども、十八番のショパンだって、ロマン派はどんどん弾きたいのだけど!

今、スチール弦を張っていて、「音が小さい、もっと鳴らせ」と言われるのにうまく音が出せない人、違和感をずっと持ち続けている人、ガット弦を張ってみたら変わるかもしれません。ガット弦に真正面から取り組んでみるのには勇気がいるかもしれませんが。今後の長い演奏活動を思えば、近道でもあると思います。
私は遠回りと寄り道をしてきました。バロックなどピリオド奏法の意義はわかるけれど、生の音を聴いたときに音楽のエネルギーを感じず、扉を開ける気持ちが動きませんでした。20年前にガット弦の良さを知ってから留学できていたら・・・と考えることもしばしば。
今、40代の演奏家は中堅の一番稼ぎ時なのでしょうが、私はとても若い気分でもあり、遠回りと寄り道を十分な経験として捉えてもいます。
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