また雨、まだ雨。よく降ります。ものすごく蒸しているこの頃。梅雨はいつ明けるんでしょう。。。
カラッとした空気が早く来て欲しい。
こんな本があります。
300年、400年前に作られた弦楽器はただの道具ではなく、生命を感じます。
イタリアのどこかの工房で生まれ、人から人へ誰か演奏家に所有されて、宮廷やサロンやコンサートで優れた演奏者によって弾かれたり、アマチュア奏者が家庭で楽しむためだったり、弾き手によって出される音色も変化してきました。その度に様々な状況に置かれ、戦争をかいくぐって。零下何十度で弾かれることもあったかもしれないし、高温多湿のアジアにやってきたり。
昔から名器を模倣して楽器つくりを学ぶ、ということを楽器職人はやってきました。何百年も前のオリジナルの名器は数が限られていますし、いい状態で残っているオールドの楽器は値段が高くなります。弓も同じです。
いわゆる古楽復興が起こって以来、古い弓や楽器を現代の楽器職人がコピーして作ったものを多くの演奏家は使います。
バロックヴァイオリンとかバロックチェロと呼ばれるものは、ヴィヴァルディやバッハの生きていた頃に現存していた楽器をそのまま使っている、というのではありません。古い楽器は19世紀20世紀の音楽様式に合わせて、楽器は調整され、修理されて今に至っています。ネックの角度、指板の長さや幅や太さ、駒の形など、本体(胴体)以外は、時代の変化に合わせて調整されています。それを、バロックのスタイルに戻した、ということになります。
もちろん、現在の楽器職人による新作の場合もあります。
古い文献を学び、研究して、その当時のものを作ることは職人にとって大事な仕事です。
演奏家もにとっても同じように大事なことです。それだけでなく、演奏技術も楽譜や文献から学び、想像し、探求します。
頭で理解するだけではなく、演奏家にとって忘れてはならない、とても大切な感覚があります。
それは、生命を持つ楽器から学ぶ、という作業です。
楽譜や文献は読めますが、どんな音が出ていたか、実際の音はわかりません。楽器や弓をそっくりにコピーしても、音は誰にもわからない。推測しかできません。正しい答えはない。
昔の演奏技術を知っているのは、古い楽器ではないだろうか?
1600年代1700年代に弾かれていた楽器は、当時の演奏家の技術や音を覚えているはずです。
特に弓の動きについて、楽器に聞きたい。
ヴァイオリンを弾くときの弓の動きは、ダウンボウは重力に従って腕の重さでストンと下へ落ち、アップボウは上に向かいます。天に向かって上がり、地面に向かって下がる。イメージしやすい自然な運動です。
チェロは横の動きです。この楽器は、演奏者の意思がとても大事なんだとつくづく思います。自然に任せていたら弓が手を離れて落ちてしまう。横に動かさなければ音は出ません。
新しく作られたばかりのバロックボウを使うとき、楽器が自分の言葉を喋るためには、人間がどう考えているか(何もアイデアがないか)、何をしたいか(あるいは、どうしたいかわからないとか)、顕著に現れます。新しい弓でも喋り方は教えてくれるかもしれない。でも、音楽の中身、内容はどうだろう。
オールドの弓は音の種類、表現の種類、深さがあります。演奏家が知らないことを知っているのです。
ああ、完璧な組み合わせなど無理!
試行錯誤をしながら、楽器とともに学んでいくしかないのです。