2020年07月27日

続・楽器に聞く

KIMG1863.JPG
ストラディヴァリウスなどの銘器は、代々誰が使って、どの店で修理して、どのような経路で現在に至るか記録が残っています。どこの国のどの会場でどんなコンサートで弾き、お客さんの反応がどうだったとか、いつ盗難にあったとか、事故などのエピソードがいいことも悪いこともたくさんついてきます。
この本「ストラディヴァリウス ある名器の生涯」(トマス・マロッコ著 金澤正剛、山田久美子共訳)は、昔パガニーニやイザイが使ったヴァイオリンの歴史ですが、読んでいくと、おしまいの方の22章で懐かしい名前が出て来ました。
チェリストのアメデオ・バルドヴィーノ氏。本の中では「バルドヴィーニ」となっていますが、Baldovinoです。トリオ・ディ・トリエステのメンバーとして活躍していた1960年代の話で、アルゼンチンで乗っていた船が沈没し、メンバー全員助かったが、ザネットヴィッチのガダニーニのヴァイオリンも、バルドヴィーノのストラディヴァリウスのチェロも水に浸かり、岸に流れ着いたところを見つけられた。飛行機で二日かけてチェロを運び込んだロンドンのヒル商会に、主人公のヴァイオリンがちょうど預けられていた、という。
楽器職人の修理の技術は素晴らしいですね。海水に浸かって砂だらけになっても、バラバラになっても(被害を受けた姿を見たときショックを受けるだろうに!!!)、とにかく根気よく丁寧に時間をかけて、元の形に直してしまう。
職人がいなければ、私たちの仕事は成り立ちません。
表に見える、大きな華やかな仕事の根底を支えてくれています。音楽的な感覚を持ち、繊細な感覚と技術を磨き続け、自ら楽器を弾くことができて、いい演奏技術も知っており、また、演奏家とともに学ぶという姿勢もある、という楽器製作に関わる人が絶えることのないよう祈るばかりです。

さて、話を戻して。
バルドヴィーノ氏は私が大学生の時に芸大でマスタークラスをされました。ピアニストの奥様モーリン・ジョーンズさんーーオーストラリア出身の天才少女だった彼女はヨーロッパで活躍、存在感のあるマダムでしたーーと一緒に。その時はご自分の楽器は持って来られませんでしたが。
その後、イタリアはフィレンツェ郊外にある丘の上のご自宅を訪問し、当時教えていらしたフィエーゾレの小さな音楽学校も訪ねて、個人レッスンを受けました。その頃すでに80代前半のマエストロ。数年前にバッハの無伴奏チェロ組曲全曲録音のCDを出し(なんと、80歳目前にして初のバッハ全曲録音!)、「今はヴァイオリンのためのシャコンヌを勉強(練習)している」と仰っていたのを覚えています。
ヨーロッパの知的な音楽家の中では、ソリストとして有名なことよりも、室内楽奏者として信頼されている方が音楽家として重要、とする見方があります。バルドヴィーノ氏はソリストとしても若い頃から活躍し(ジョコンダ・デ・ヴィートとのブラームスのドッペルコンチェルトの録音も有名)、ヨーロッパでは有名な音楽家でした。
小柄だけれど、力強く芯のある、そしてバネのように若いエネルギーを身体の中に持っている方でした。知性に基づく厳格さがあり、意志が強く、一方で話好きでチャーミングなお人柄でした。
フィレンツェ郊外の静かな、緑が広がる中に石造りの大きな家が点々とある風景、丘の上の邸宅前で、後ろ手に組んで散歩するマエストロの姿を思い出します。
posted by makkida at 12:37| あんなこと こんなこと | 更新情報をチェックする
当サイトの写真、記事の無断転載・無断使用はご遠慮ください。 Copyright 2022 Makiko Tomita Kida, all rights reserved.