2021年03月15日

独奏チェロの変遷@チェロ誕生(バロック時代半ば)

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信濃町も雪が溶けて、オオイヌノフグリや福寿草が咲き、蕗の薹が出てきました。家の周りもだいぶ雪がなくなり、土が現れました。

さて、独奏チェロのための作品の移り変わりを、楽器の生い立ちや作曲家などとともにご紹介していこうと思います。シリーズの第1回。今回は、チェロが生まれたバロック時代半ば、17世紀後半のお話です。

まずバロックチェロについて。と言っても、本体は現代の楽器と同じです。バロック時代、当時使われていたスタイルに調整されたもの、という意味です。
現代の楽器と並べて比べるとわかるのは、まず指板(左指で抑える場所)の材質。木の種類が違います。現代の楽器には黒檀が使われます。これは重い木材です。一方、バロック用に調整された楽器には、もっと軽い木が使われます。楽器に負担がかからない方が音が軽くなります。
楽器全体が軽くなると、バロック音楽の特徴であった、言葉を話すように演奏する、ということがやり易くなるのです。よく響く宮廷の部屋(サロン)や教会(聖堂)で演奏するときには、音量よりも明瞭にアーティキュレート(はっきり発音する。音節(シラブル)に分ける)することが大事です。
それから、指板の長さがバロックの方が短いです。18世紀終わりから現代に至る音楽では、高い音域をよく使うので、長い指板が必要となります。
そして、ネック(竿)の角度が違います。現代の方が角度がついています。バロックの方が平らに近い。角度がついていると、弦を張った時に楽器にかかる張力(テンション)が強くなります。張りのある、フォーカスされた(焦点の合った)音になります。

実際に楽器を抱えて演奏するとすぐに気がつくのは、現代のチェリストが楽器の下から伸ばす棒、エンドピンを床に刺しているのに対して、バロックの奏法では両膝の間に挟んで弾きます。

それから、弦ですが、当時の弦楽器には羊や牛の腸をよって作ったガット弦を張っていました。20世紀以降、現代のチェリストの多くはスチール弦を張っています。私はモダン調整の楽器にもガット弦を張っていますが。ガット弦は伸びるのに時間がかかりますが、スチール弦は新品をすぐに張って音を出せるので便利です。効率的な弦や楽器は忙しい現代社会で求められるのかもしれませんが(人間がそれに合わせているのでしょうが)、音色や音質の面で失われるものも多く、音楽の本質的なところで大きな違いがあります。

この低音楽器が、一般的にチェロと呼ばれるようになったのは、1600年代終わりのことです。それ以前にも、もちろん、弓で弾く大型の低音楽器はあり、バスヴァイオリン、ヴィオローネ、バセットなどと呼ばれ、今の「チェロ」より大きなものなどサイズは色々でした。低音楽器は、他の楽器との合奏でバス(低音)パートを担当しました。その中に現代のチェロの様にテノールパートを受け持つ楽器もあり、華やかな装飾的な音形を弾くこともありましたが。
主に伴奏楽器だったチェロの前身が、次第に独立し、独奏作品も演奏するようになったのは、北イタリアのエミリア・ロマーニャ州のボローニャで巻き線の弦が開発されたのがきっかけです。ガットを芯にして、そのまわりに金属の細い線をきつく螺旋(らせん)に巻いたのが巻き線です。
この巻き線のお陰で、低い弦が、プレーンガット弦より短くても、そして細くても、同じ音程を出せるようになりました。つまり、楽器のサイズが小さくても低い音が出せるようになったのです。

そして、ボローニャやその近郊ではチェロ奏者が活躍し、独奏楽器としての地位を確立します。チェロ奏者が自分で演奏するだけでなく、教えるための作品が次々に生まれます。

続く
posted by makkida at 23:58| 17、18世紀のチェロ音楽 | 更新情報をチェックする
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