2016年04月10日

初期の作品

初期と言われている、ベートーヴェン30歳頃までの作品は、当時のスタイルのピアノや弓、それに伴う弾き方をすることで俄然生き生きしてくる。
というのも、作品18の弦楽四重奏が今まで感じたことのない、とても新鮮な楽しい音楽に聴こえてきたのだった。もちろん、つまらないと思っていたわけではないし、楽しいと感じて弾いていたけれども、こんなにこの曲がこんなに自分に身近で語りかけてきたことはなかった気がするので、驚いた。
ピリオド奏法をする前までだって彼の音楽は好きだったけれど、中期以降の作品の、音が混み入って、ロマン派に近づく方がわかりやすかった。モーツァルトやハイドンの軽やかさとは全く違う、ベートーヴェンの初期の作品は、いったいどうバランスを取って弾いていけば良いのか、音を出せばいいのか、しっくり来ていなかった。あんなにシンプルな構造で、音もそれほど多くなく、楽譜だけ見れば決して重くないのに、音の存在感を求める呪縛にかかっていた。それは、重い(スチール弦やモダン弓の重さ)楽器で軽い音楽をするときに現れる、思い切り音を出せずに頭を押さえつけられたような息苦しさだけでなく、軽やかさに加えて、更に「意思を持った音」を作ら「ねばならない」息苦しさなのか。「若いモンには理解できない」的な。そんな、音を出すのも「難しい」音楽なのだろうか・・・・。ベートーヴェンが苦手な人は、間違った「重厚さ」に辟易しているのではないかと思う。確かに後期の作品での彼の頭の中の世界は、この世のものではない、時代を超えたようなところが難解だけれども。でも、とにかく自由。自由ってなんだろうね。

たまたま聴いた録音は往年の東ドイツの弦楽四重奏団で、寸分たがわず揃っていて固い演奏だけれども、ベートーヴェンの精神に出会えるのだった。演奏スタイルはどうであれ、表面上の理解による音作りでないときに、音楽の、人間の良いところが聴こえてくるのかもしれない。
若い頃に急進的な人々が集まる環境に身を置き、啓蒙主義思想に影響を受け、理想を持ち続けた作曲家は、何を考えて生活をし、そこから彼の霊感が溢れ出ていったのか。知性と人間性は音につながっていく。生き生きした脈動や、愛情、感情の高まりが素直に表れる。技術を学ぶ以上の、もっと楽しい理解ができる音楽なのである。
徹頭徹尾ベートーヴェンだ!

4月17日(日)14時(13:45開場)
《ベートーヴェンからの手紙》おはなしコンサート
富田牧子(チェロ)、大村千秋(フォルテピアノ)

場所:古楽研究会 1階 Space 1F
曲目:ベートーヴェン/魔笛の主題による12の変奏曲 ヘ長調 作品66、
ピアノとホルンまたはチェロのためのソナタ ヘ長調 作品17・・・ほか
料金:一般3500円/ペア6000円/大学生まで1000円/小学生500円
チケット取り扱い・問合せ:MA企画 kikaku_ma☆yahoo.co.jp(☆を@に変えてください)残席僅少
チラシはこちら20160417おはなし.pdf
posted by makkida at 15:01| ベートーヴェンからの手紙 | 更新情報をチェックする

2016年03月26日

遊び工房:おはなしコンサート

 あちこちで花が開き始めました。
 4月17日、久々に大村千秋さんのフォルテピアノとともにベートヴェン企画、おはなしコンサートを開きます。
 前回は、話したいこと盛り沢山で、レクチャーコンサートになってしまいました。時間内に収めるために、ほんの一例しか挙げませんでしたが、「おはなし」程度にはなりませんでした。深く専門的な話を好まれる方には好評だったのですが、それにしても、我慢くらべみたいになってしまって、たいへん申し訳ないことをしました。

 「実験」ではなく、「遊び」で。
デュオ(室内楽)として音にしていくとき、演奏者はリハーサルでどのような試みをしているか、説明し弾きながらお見せします。また、「あの当時の弾き方はこうだった」だけで終始しないような、当時の楽器とその奏法で、みんなよく知っているベートヴェンの音楽がどう新鮮になり、面白くなるか、拙い話のあとには一曲通しての演奏と共にお楽しみいただけるよう考えています。お客さまとのおはなし交流も大歓迎です。

 モーツァルトのオペラ『魔笛』のパパゲーノの有名なアリアのテーマを使った、ベートーヴェンによる変奏曲。ベートーヴェンはウィーンに移り住む前に、モーツァルトに会い、教えを受けようとしたことがあります。モーツァルトは彼の演奏を聴き、周りの人に「この若者に注目したまえ。いつか話題となるものを世間に提供するだろうから」と言ったとか・・・。『魔笛』のなかでも強く印象に残ったのでしょうね、パパゲーノの有名なアリアは。初版の表紙には「オブリガートのチェロ付きピアノのための」と印刷されています。響きとしてもチェロの彩りを添えたピアノの曲、ということかな。そう、ピアニストベートーヴェンにとっては、ピアノと他の楽器の作品においてはソナタでさえも「ピアノと◯◯のため」なのです。
 そして、チェロではあまり演奏されませんが、ピアノとホルンまたはチェロのためのソナタ。ヴァルヴなしのホルンの名手だったプントの能力を、十二分に引き出すために書いたソナタです。ただ、彼以外の奏者にとっては難曲だったので、出版の際、出版社は需要の拡大をねらって、チェロでも弾けるようチェロパートを付けました。ベートーヴェンもそれを是認したとはいえ、ホルンへの入れ込みように比べれば、チェロパートについてはオマケなような気もしますが・・・。音楽の内容は、4年前に書かれた二曲のチェロソナタより構築性が明確で、声部の扱い方が整理されており、迷いのない推進力を感じます。作品18の6曲の弦楽四重奏を書いた後の充実度が、確かに現れています。
 彼にとって芸術活動とは、「自由」であると確信していること。演奏技術の可能性も既存の枠に収まらないし、人間や思想が権力によって縛られない、と考えて生きていました。市民が立ち上がったフランス革命直後のヨーロッパの不安定な時代に、人が自由に生き創造することを一貫して求め、迷い挫折しながらも自らの音楽の力を信じたベートーヴェン。ピアニストとして人気上昇中、意気揚々、乗りに乗っている頃の作品を取り上げます。

 チェロとフォルテピアノによる「遊び工房」へ、ぜひお越しくださいませ!

4月17日(日)14時(13:45開場)
《ベートーヴェンからの手紙》おはなしコンサート
富田牧子(チェロ)、大村千秋(フォルテピアノ)

場所:古楽研究会 1階 Space 1F
曲目:ベートーヴェン/魔笛の主題による12の変奏曲 ヘ長調 作品66、
ピアノとホルンまたはチェロのためのソナタ ヘ長調 作品17・・・ほか
料金:一般3500円/ペア6000円/大学生まで1000円/小学生500円
チケット取り扱い・問合せ:MA企画 kikaku_ma☆yahoo.co.jp(☆を@に変えてください)好評発売中!
チラシはこちら20160417おはなし.pdf
posted by makkida at 12:32| ベートーヴェンからの手紙 | 更新情報をチェックする

2014年04月20日

音楽ジョーク

002small.jpg
ベートーヴェンからの手紙第二弾では、ベートーヴェンのソナタと変奏曲のほかに、ハイドンと、「あれ?どこかで聴いた、これアノ曲じゃん!」を集めました。

編曲というと、正統じゃないイメージを持たれる方もいらっしゃるでしょうか?パロディや、○○の主題による作品は、作曲家が一から造り上げたものより劣ると思われるでしょうか?
「楽器を弾く、演奏する」play、spielen、játszik...は、遊ぶ、演じる、ゲームをする、の意味もあることばなのだから、思いっきり遊ばなくっちゃ。
過去から学ばなかった人など誰もいない。大先輩の作品をそのまま編曲するなんて、偉大なバッハだってしていた。そして、人々が口ずさむ民謡や、聖歌、コラールを主題にして新しく作曲するのは当然のこと。敬愛する音楽家の作品から使ったり、ベートーヴェンの「ヘンデルのユダマカベウスの主題による変奏曲」のように、献呈者に敬意を表するために立派な歌詞がついた歌を使ったり、あるいは、冗談をしてみたり。
いい編曲かどうか、それは音楽家のセンスと実力なのです。その人しか出来ないものになるのです。

さて、ベートーヴェン以外の音楽は、というと。
ハイドンのバリトン(baryton弦楽器)とヴィオラ、チェロのためのトリオを、チェロとピアノのために編曲したもの。ハイドンが仕えていたニコラウス・エステルハージ候は音楽愛好家でバリトンを弾きました。
どの音楽も、関わりのある人や出来事の影響で生まれるものです。ですから演奏するときには、その作曲家の生きた時代背景や、どんな暮らしをしていたか、どんな人が周りにいたか、様々なことを知って、自分のなかで生きた人間として浮かび上がらなければその音楽にならないのです。
あ、話を戻します。
それからアントニン・クラフトのチェロソナタ作品1の2から...音楽のジョークは当日のお楽しみ!

3月のおはなしコンサートでは、話が長くなり、ソナタにたどり着くまでにかなり時間を使ってしまい、レクチャーになってしまいました。実は、それがやりたかった...のですが。「弾きながら解説」型「レクチャーコンサート」は、いずれ企画&実現したいと思います。「おはなし」程度ではなくなってしまった点は反省し、次回おはなしコンサートは構成を整理させていきます。
5月の洋館コンサートでは話は少な目にしますので、どうぞ懲りずにお聴き頂けましたら嬉しく思います。

今回、野神氏の素敵な愛らしいフォルテピアノを使わせて頂けて幸せです。このピアノとのアンサンブルはどんな響きになるでしょう!楽しみです。モーツァルトが使っていたピアノと同じ製作者ワルター(製作年代は違いますが)のレプリカです。
モーツァルトがチェロとピアノのために完全な作品を遺してくれてたら!!!と思います。

5月の中旬、きっと爽やかな風そよぐなか、横浜の港のみえる丘公園ではバラが咲いているでしょうか。
もしよろしければぜひ足をお運びくださいませ。お待ちしております。
posted by makkida at 12:43| ベートーヴェンからの手紙 | 更新情報をチェックする
当サイトの写真、記事の無断転載・無断使用はご遠慮ください。 Copyright 2023 Makiko Tomita Kida, all rights reserved.