
いつもそこにあるのに毎日違う表情を見せてくれる自然。スゴイなあ・・・
11月26日に予定しているバロックチェロのデュオコンサートでは、18世紀のパリを舞台に活躍した音楽家などの作品を集めてお届けします。
イタリアとフランスのバロック音楽、バロックのことをそんなに知らなくても違いが感覚でわかります。
でも知るともっと面白い。
具体的に何が違うのか。
国がどのように成り立っているか、政治体制です。
20世紀前後の頃にも、フランスの音楽家は「フランス的なもの」を強く意識して作曲し文章に残しました。
17世紀のフランスではルイ14世が音楽・文化に対して力を持っていました。熱心な音楽愛好家というより権力者です。16世紀から流行したバレエ(オペラ・バレエ)、その中で舞踏を王自らが踊った。いや、むしろ、王が踊るためにお抱えの音楽家に作曲をさせました。
フランス様式、フランス趣味とは、ルイ14世の趣味ということです。
パリからヴェルサイユに、すべての雇い人、貴族たちを連れて移動し、公務を行ない、宮殿で芸術活動を行った。貴族たちが自分の領土(地方)で力をつけないように、自分に歯向かえないように、ヴェルサイユに囲ってしまったわけです。貴族たちの日常生活に音楽や踊りは欠かせないので、当然、宮廷音楽家も一緒に。
想像しただけで、肉体的にも精神的にも、ものすごく窮屈です。
一見華やかで優雅、軽やかな音楽の裏にどんな生活があったか。トイレのない、不衛生な宮廷で、香水まみれの王侯貴族。
少年の頃にイタリアからフランスに来たリュリは、ルイ14世の宮廷音楽家として活躍しました。彼が行う仕事の内容は、王の趣味に合う音楽を作り、その趣味に従った演奏法を合奏(オーケストラ)のすべての団員に伝えて演奏することでした。その演奏法とは、例えば、多種多様な装飾音をどのように演奏するのか、細かな違いを弾き分けること。ヴァイオリンのボーイング(弓遣い)を揃え、舞曲のリズムを合わせること。
この頃の宮廷ではヴィオールが好まれており、マレなどの名手も活躍していました。24人のヴァイオリンのアンサンブルはあったけれど、チェロはまだ。何しろ、1740年になっても、ヴィオールの繊細さと優美な運弓(ボーイング)を賞賛する論文『ヴァイオリンの侵略とチェロの野望に対するバス・ド・ヴィオル擁護論』が書かれ、チェロは「惨めで貧しい、悪魔の楽器」と散々なことを書かれていますから・・・ヴァイオリン属はフランス趣味では「優雅」でなかったのでしょう。
一方、イタリアは中央集権ではありませんでした。あちこちの地域(支配するのは領主、ローマ教皇)が分かれていた。
イタリアのバロック音楽は自由な装飾、即興が必要です。
17世紀後半に「大きなヴァイオリン」のうちで大きすぎない小型の低音楽器VioloneヴィオローネをVioloncelloヴィオロンチェロ(小さなヴィオローネ)と呼ぶようになり(今のチェロです)、市民権を得たチェロは通奏低音だけでなく、独奏楽器として育っていきます。ボローニャで生まれ、他の都市、外国へと広がります。特にナポリのチェリストは外国に移住する人が多く(政治的なものも理由のひとつか)、有名なボッケリーニもパリやスペインで演奏活動をしました。
18世紀初めにはフランスのチェリスト、バリエールもローマで学び、その後の作品にはイタリアで受けた影響が色濃く現れ、より技巧を駆使した内容になります。
さて、ヴェルサイユに王侯貴族が行っている間、パリの上流階級や商人、市民の中から文化を享受したい欲求は生まれていたでしょう。17世紀初めにはすでに街の本屋が文芸誌を初めて刊行、2番目に古い文芸誌がMercure de France。19世紀の間に一時期無くなっていましたが今もまだ存続しています。
宮廷生活の紹介や貴族のファッション、詩、歌、結婚情報、芸術・音楽批評が掲載されていて、ここに取り上げられるということが流行の証でした。地方や外国に広める役割もしたのです。
18世紀に入ってルイ15世の治世下、彼はイタリア音楽を愛好しましたから、イタリアから新しい音楽はどんどん入って来ます。フランソワ・クープランはルイ14世の時代からイタリア音楽に関心を持ち学んでいたでしょうけれど、1724年に書いたコンセール集は「趣味の融合(和)」であり、フランス様式とイタリア様式の融合を成功させました。
コンセール・スピリチュエルと呼ばれる公開演奏会が始まったのが1725年。王立音楽アカデミーのオーケストラが教会暦の四旬節(3月)に休みになる間、パリの人々に音楽の楽しみを提供するために始まりました。初めはラテン語で歌われる宗教作品が、コレッリの器楽作品と合わせて演奏されましたが、聴衆の大半はラテン語が理解できなかったので、フランス語の世俗声楽曲も加わるようになりました。
コンセール・スピリチュエルではバリエールやイタリアから演奏旅行でやって来たボッケリーニも出演、ボワモルティエ の作品も演奏されました。バリエールやボッケリーニの演奏会は前述のMercure de France誌で称賛されました。
もう、こうなると、市民が共有する文化ですよね!
数年前にフランスの著名なオルガニストの公開レッスンを聴いた時、彼が「日本人の演奏家はフランス革命以前の音楽はよく弾ける」と言っていたことが印象深いです。ここでは革命は現在に至るまで経験していませんから・・・。
シビアに考えると、革命前の「恐ろしい」独裁の音楽ですら本当に理解するのは難しい。
今、その当時通りに演奏するならば・・・権力者の趣味に合わせた弾き方を理解した、権力者に気に入られた指揮者の指示通りに演奏する・・・ということだとしたら・・・震えるほど怖いことです。
チェロが急速に発展した時期と、フランスの市民の社会活動が活発になった(それが革命へと繋がるのでしょう)時期が重なるのは興味深いことです。楽器の性格上、想像ができますが。
チェロの歴史を知ることは楽しく、勇気付けられるようです。
バロック音楽をヨーロッパで学び演奏活動をして来た高橋弘治さんと、2つのチェロによるコンサートができるのはワクワクします。
どうぞお楽しみに!
橋弘治 富田牧子 バロックチェロ デュオコンサート
”フランスの系譜”2回公演
15:15[15:00開場]/
19:00[18:45開場]
【場所】近江楽堂(東京オペラシティ3階)
〜18世紀パリを舞台に活躍した音楽家の作品を集めて〜
F.クープラン、J.B.ボワモルティエ、J.B.バリエール、
G.F.サッジョーネ、L.ボッケリーニ など
【チケット】一般前売¥4000[当日¥4500]/ 学生¥2500
好評発売中!【予約・問合せ】☎︎03−6317−8916 ベアータ
【企画・予約・問合せ】MA企画 kikaku_ma☆yahoo.co.jp(恐れ入りますが☆を@にタイプし直してください)
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celloduoチラシ表.pdf20211126チラシ裏面.pdf