
2024年の12月にBEATAコンサートシリーズで急遽ソロコンサートに変更して行った際、「J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲とその周辺」の題名をつけました。詳細はコンサートご案内の記事に書きましたが、器楽曲はそれだけ見ていても理解が深まりません。
バロック音楽の弾き方については、現在活躍している演奏家から学ぶのでももちろんいいアドヴァイスは得られますが、過去の音楽家が残した教本を読むのが助けになります。何年間かレッスンを受ければ身につく、というものではなく、生涯自分で考えて探求していく、というのが芸術の道ですよね。
ヨハン・ヨアヒム・クヴァンツの「フルート奏法」には、フルートの演奏法だけでなく、ヴァイオリンやヴィオラ、チェロ、鍵盤楽器についても詳細な演奏法が書かれています。
リピエーノ楽器(ヴァイオリン)奏者のために、もっとも大切な点を教えてくれています。
「ボーイングにより音は生命を与えられる」
どんなに通奏低音のバスが音楽に生気を与える演奏をしていても、お客さんの耳はソロ楽器にいくものです。当然、作品のアイデア、キャラクターはソロ楽器がどのようなアーティキュレートをするか、にかかっているのです。それぞれの音形を見つけて明確に弾き分けること。それは発音の仕方、つまりボーイング(弓遣い)。スラーの付け方、音の性格、など、どんな喋り方をするか。様々な種類のボーイングを練習して、曲の中でどのようなボーイングを選ぶか、考え方ですね。
声楽曲は「言葉」がついているので、ボーイングはそこからイメージができます。様々な言語はそれぞれ発声、発音が違いますから、それも含めて大きなヒントが与えられます。
バッハの教会音楽(宗教曲)に関してはもう一歩奥に進んで、言葉の意味も含まれます。どんな言葉(表現)の時にどのような和声がつくのか。バロック時代の音楽家の基礎である修辞法と合わせて考えていく面白さ。
終わりのない勉強、仕事です。
オルガン奏者はいいですね。声楽作品と直接つながる教会音楽を一人で演奏できる。
デュオレッスンのおかげで、私もオルガン作品を楽しく勉強しています。

バッハの無伴奏組曲を、同時代の音楽や、バッハの声楽作品を通して見ていくと、多くの発見があるのではないかと思いますし、当時の音楽が現代の自分にもっと近くなり楽しくなります。自分(の言葉)で喋ることができれば、聴く人にも説得力のある音楽になるのではないかと。これはバロックに限らないですけれど。
発見があればあるだけ、私はその作品について知らないことだらけだ、と気づくのです。
私がプロテスタントの教会の礼拝で奏楽するときや、「平和への祈りコンサート」のプログラムの中で、ドイツ語の賛美歌(コラール)を取り上げているのも、声楽作品に全ての大事なものがあり、直接聴き手に伝えることができるからです。そして得られるものの豊かさと言ったら・・・!
作曲当時の人々は、楽譜が読めなくても教会暦のコラールを知っていたし、最新作を一度聴いたら何年も後まで覚えている人もいたし、現代の私たちよりずっと音楽を身体的に感じ取る力があったと思います。視覚や頭での理解でなく、耳から、そして身体での理解です。
芸術は説明されたから理解できるものではなく、一人一人が感じ取るものでしょう。音楽そのもので味わっていただけるような演奏を目指したい。
J.S.バッハの無伴奏組曲とコラール、という内容でも継続してあちこちで弾いていきたいと思います。
まず3月23日の京都で「J.S.バッハとその周辺」、
今年中に、「無伴奏組曲とコラール」を松本か上越でもやってみたいと考えています。
